この日は、我々にとって人生最大の経験を得た忘れられない日となる。夫が現役時代、在外では二度もご薫陶をいただいた10年大先輩の小和田大使に、5月11日、宇都宮共和大学で学生を対象にした特別講演をやっていただくことが出来たのである。「冷戦後の世界と日本」というテーマで響きは固いが、1時間半の講演を休憩なしで、淀みなく、言葉をかみしめて丁寧に優しく語られて、聴衆は集中して聴いていた。かねてからの夫の願望であり、思い切ってアクションをとった結果、栃木県下の五つの大学の共催を得て、日光清風塾が事務局となり実現した大プロジェクトである。夫の行動力に改めて感じ入りながらも、サポート役としてどこまで意にかなうか、一連の流れの中で、途方に暮れることもしばしばだったが、同じ方向を向いていれば、時間が解決してくれることも分かった。一人では出来ないことを、いかに同志を得て協力をしてもらえるかが全ての鍵である。リーダーシップとは何か。ぶれない目標に熱意を持って挑む姿にどれだけ共感し、理解できるかどうかである。説得力もあるが、何より、誠実さと目標に挑む熱意がリーダーシップの強さを決めるのだと思う。いろいろ大変な思いもしたが、良い結果が出て本当に安堵した。
翌日はハンブルだが、豊かな新緑に囲まれた我が家にご夫妻でおいでいただくことも出来たことは最高の慶びであった。この11日と12日だけが前後の雨の日に挟まれて、新緑薫る最高の五月晴れに恵まれたことにも大感謝である。多忙な東京暮らしを半日ほど忘れていただき、少しでも、田舎の、きれいな空気をエンジョイしていただきたいという我々の願望が実った日となった。プチクール(小さな我々の合唱隊)の仲間にもランチに加わっていただき、合唱を披露したり、盆点のお抹茶を東京からの友人にやっていただいて、くつろいでいただいたり、20年近くかけて手掛けた手造りのワイルドな庭を一寸だけ散策したり、我々のおもてなしを素直に、親しく喜んで受けて下さったご夫妻に、我々一同も感激であった。ご高齢ということも忘れて、あれやこれや、おもてなしのつもりが、一寸ご無理を強要させたかもという懸念もあったが、最後に日光駅でお見送りした時は、本当に喜んでいただけた様子に、涙ぐむほどに感激した。握手から、抱擁、さらに頬ずりまでして、それこそ夢心地であった。「竜宮城に居たみたい」と印象をおっしゃっていただいたことが何かにつけ、今でも胸をよぎる。
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