2020年5月7日~5月13日 「7日ブックカバーチャレンジ」に参加して
「7日間ブックカバーチャレンジ」最後の7冊目は月見よし子著「源氏物語原文分解分類法」をご紹介します。
ヨーロッパ室内装飾研究家の深江芳枝様からバトンをお受けしたものの、私からバトンをお渡しすべき方探しが難航し、後半は本だけをご紹介するに留まったことをお詫びいたします。本来の趣旨にそぐわない形になりましたが、ご紹介したい本選びの作業をする中で、私自身が読書の面白さを確認することが出来て良かったと思っています。
1日目は鮫島純子著「何があってもありがとう」、2日目は川端康成著「美の存在と発見」、3日目は下村徹著「ドナウの叫び」、4日目は細川珠生著「私の先祖 明智光秀」、5日目は岸恵子著「私のパリ 私のフランス」、6日目は佐藤勝宏著「晩霞」、そして最後の7日目が月見よし子著「源氏物語原文分解分類法」
「源氏物語原文分解分類法」という本は私の長女の小中学時代の親友同級生だった美子さんが書かれた物。娘が小学四年生から中学二年一学期まで東京越中島の公立校に通っていた時の親友であった人で、私にはあの可愛らしい少女時代の一寸おとなしそうな美子ちゃんというイメージしかなかった。その後、私達がもう四半世紀前になるがブルネイに赴任していた時、もう一人の親友と一緒に遊びにきてくれたこともある。そして間もなくして、この本が出版されたのである。娘自身この本が送られて来た時、びっくりしたそうである。私も手渡されたとき驚き、読んで本当に驚いた。あの美子ちゃんがこんな本を出すなんて。独学で極めた本。後世の日本人に向けた紫式部の思いを追求して辿り着いた結果を心の宇宙の物語として世に示したのである。千年の時を超えて、日本文学の傑作であり、聖書のような源氏物語。ただの色恋物語ではないからこそ普遍的名作品であり続ける。「日本人の皆様、源氏物語原文を読まずに死に逝かないで下さい。」というのがまず最初に書かれている。彼女の切実な訴えのような文句である。「女読み」と言われる源氏物語現代語訳を読んでいた彼女自身のお母様が、源氏物語を恋愛小説の視点で解釈されていることに疑問を持たれたことが動悸になっているよう。お母様の源氏物語原文との格闘が始まり、その後姿を美子さんは見ながら生きてきたとも言っている。紫式部が執筆していたという蘆山寺を母娘で訪れた時、お母様が廊下に座り庭を眺めながら、おもむろにこう言われたそうだ。
「お母さんね、源氏物語がわかったのよ。もう、いつ死んでもいいわ」と。
この悟りを開いたような文言に私は衝撃を受けてしまった。こんな言葉があるという事自体が驚きだった。内面の達成感というのか、生きてきたことへの感謝というのか、余りにも静寂な無の境地をこの一言はそつなく言い当てている。美子さんのお母様を私も昔会っているので少しは知っている。とてもおだやかで謙虚な物腰の方であった。お嬢さんが娘と一緒にブルネイに来て下さった時も後からお礼状もいただいている。身近にいた人達がこのようなライフワークを手掛けておられたことに大変な刺激をいただいたことになる。東北大震災の経験から、多くの人が真剣に思い始めたこと、それは ”今やらなくては!” という作業興奮のスタートである。美子さんもこれが引き金になって作業が始まったとも言及している。
源氏物語の構造を18に分解分類して、原文を独自に解釈し、その奥にあるメッセージを手繰り寄せている。・・女性は浮いている舟であればこそ自由に生きることが出来るのです。ふらふらとあてもなく漂うのではなく、自分の意志でしっかりと前に進んで行きましょう。・・・浮舟の言葉は紫式部の声だと言う。物語が千年生き残ることの出来た生命力の源は紫式部の洞察力と感受性、そして表現への情熱と日本語の力である。この本は、紫式部が日本語に心を込めた結実を理解するための手引きとも言える力作である。
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