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2012年5月12日土曜日

三毛子 (22)

三毛子の自叙伝(22)
 でも猫も人間様と同じで、慣れるとそれが当たり前になってしまう。あんなに外の廊下を歩く足音に耳をそばだてていたのに、それも関係なくなっていった。いつも昼間は別としてもおかあさんが側にいると思うと、安心していられる。本来の猫の生活に戻って行った。一番嬉しいのは、夜寝る時は、おかあさんのお布団の上にあがって、横になるのに丁度いい角度というか、くぼみというか、体がすっぽり包み込まれる所が探せることだ。暖かくて気持ちがいい。冬には、おかあさんも「ミーちゃんが暖かい!」なんて言って喜んでくれた。おとうさんの所はわたしに合わせてくれないので居心地が良くない。いつひっくり返されるかわからない。わたしはやっぱり安定している方が良いのでいつもおかあさんの方に行ってしまう。


 一番気になるのはおとうさんとおかあさんが話をする時である。私が忘れられるかもという恐怖心がいつもあった。だから、二人が食事の時などに会話すると、わたしはおかあさんの膝に飛び乗ってニャーニャー泣き叫ぶことにしていた。おとうさんは「ほら、ミーちゃんが嫉妬心を持っている」なんて難しい事をいつも言ってからかっていたが、わたしとしては「わたし、ここにいます!」と宣言し、確認のメッセージを送っていたのである。生きるということは、やはり誰かにその存在を認めて貰うことだろう。七歳ぐらいだった私はまだ甘えん坊で置き去りにされるのは怖かった。



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