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2012年6月23日土曜日

三毛子 (26)

  お姉さんやお兄さんのことは今のところ一段落状態。あとはわたしのことが心配になるところだが、わたしとしては、おとうさんとおかあさんと一緒に居たいものの、知らない所に行くのも気が進まない。わたしだって親離れはとっくに経験済みだが、やっぱり側には誰かに居て欲しい。でも新しい所に行って一からリサーチをし、安全な居場所を開拓するのも億劫である。今度の所はニューヨークより遠いようだし、途中の長旅にはとても我慢出来そうにない。などと言葉には出来ないもののわたしなりに悩んでいた。

おかあさんはいろいろ情報を集めてわたしを連れて行けるかどうか調べていたが、検疫所の問題や、公邸での生活を考えてわたしは連れて行かない決断を下した。ブルネイの時の経験が後押ししたのだろう。わたしは複雑な気持ちであった。又一人で毎日ドアの外の足音に耳をそばだてることになると思うと気が狂いそうになる。でも遠い北の国に行ったら、もっと緊張しなければならないかも知れないと思うとこれも平穏な状況ではないだろう。おかあさんは「ミーちゃん、どうする?」とわたしに声をかけてくれるのだが、「ニャーオ!わたしにもわからないよう!」と言うしかない。もう、おかあさんが決めたからには死ぬようなことはないはずだ。なるようになると自分に言い聞かせて我慢することにした。相当に鍛えられる運命を背負うことになるが、おかあさんたちも苦しい思いがしているに違いない。猫らしく、まとわりつかない特有の歩き方で我が道を歩き、おかあさんと我慢くらべをしようと決心した。

留守中はブルネイ滞在の後半でやったように、お姉さんやお兄さんたちが順番を決めて週末にはわたしに会いに来てくれた。さびしい長い週日の後は短い一瞬の嬉しい時が来るというサイクルでわたしの生活のリズムはリセットされていった。生来、丈夫で病気を全然しなかったことはありがたかった。一人で熱でも出して寝込むようなことがあったら今の私は無かったかも知れない。

おとうさんとおかあさんが赴任して行ったノルウェーは確かに遠い国であった。でも王様や首相、大臣の日本公式訪問が続き、更に、アイスランドにも兼任していたので、アイスランドからも首相や大臣の公式訪問があり、その都度、おとうさんとおかあさんは一時帰国をしたので、ほんの数日ではあったが多摩に寄ることがあったので、その時の嬉しさは格別であった。事前の予告なしで、いきなりドアが開いて二人が入って来たときは、誰か見知らぬ人が侵入してきたと思って、しばらく陰に潜んで様子をうかがった。

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