水とペットフードはたっぷり置いてある。わたしを一人にしてから、ベランダの窓は閉じたままになった。残念ながら自分で開けたり閉めたり出来ないので、窓からカラスや変なものが入ってこないようにおねえさん達が閉めて行った。全くの籠の鳥というよりアパートの猫になってしまった。窓の下の部分はすりガラスなので外が見えない。4LDKのメゾネットを一人で住むことのむなしいこと。一階の台所の餌場から、二階のリビング、三階の寝室を上がったり降りたりしながら一週間を過ごす。キンコーンとドアのベルが鳴ると、耳をすます。息をのんでかまえていると、足音が遠ざかる。毎日、この緊張感を経験する。
そして週末になると二人のおねえさんとお兄さんが一人ずつ交代でやってくる。わたしにはたまらない時である。三人の顔はちゃんとわかる。声もききわけることが出来る。「ミーちゃん、お利口さん!今トイレをきれにしてあげるね。」とか、「今日は猫草を持ってきてあげたよ!」なんて声をかけて頭を撫でてくれる。一週間のストレスが吹き飛んで行く。誰かが帰ってきて、わたしと遊んでくれる週末はわたしが生き返る時であった。でもそんな時間はすぐ去ってしまう。一泊だけして都心の下宿に帰っていく。本当につらかった。
こんな生活が一年もよく続いたと思う。ベランダの窓は夏場は少しだけ開けっ放しにしてくれたので涼しい風が入って来たし、時々ベランダでお昼寝をすることも出来た。最初の頃は、ドアに誰かの気配があると、シーンと耳をすまし、神経がピリピリしていたけど、慣れてくるとあれはおねえさんの足音だとかすぐわかるようになり、コトコトと階段を駆け降りて玄関でちゃんとお座りして待つようになった。するとおねえさんもおにいさんも一層わたしをかわいがってくれたような気がする。
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