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2012年6月23日土曜日

三毛子 (27)

「ミーちゃん!」とあのおかあさんの澄んだ弾むような声がしたがすぐには姿を現さなかった。猫は人間が思う以上に要人深い。二、三十分してから存在感を持って登場する。しばらくぶりでわたしもいささか緊張気味に
「ニャーオ! ウーゴロゴロ、ニャーオ!」とやっと甘えてすり寄る。そして劇的な再会を演じる。わたしはおかあさんの膝まで前足を延ばして「ニャーオ!」とねだる。するとおかあさんは
「よ~く、お留守番してたわね~!」とわたしを抱き上げてハグしてくれる。
 わたしは前足をおかあさんの首にまわしておかあさんのうなじをぺロエロなめまわす。この儀式は、どうやらこのころから始まったように思う。今でもこの儀式はことあるごとに行われる。勿論これはわたしがイニシャチブを取る。いやな時はやらないのが猫の主義である。主導権をにぎられるのをわたしは好まない。おとうさんはこれでいつも失敗し、損をしている。
ともかく、五、六か月会っていなくても、おとうさんやおかあさんはすぐわかるし、絶対忘れることは無かった。それだけにわたしのことを特別な猫として、又、頭の良い猫として可愛がってくれていた。わたしもそれに応えるべくしっかり留守をし、再会した時は、最初は慎重に隠れて様子伺いをするものの、存分に甘え、留守中の寂しさを挽回した。

留守を守って二年八か月、元気で耐えていればなるようになるものである。おとうさんとおかあさんの本帰国の時が来た。






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