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2012年3月16日金曜日

三毛子 ⑤

 普通ならペットを飼い始めると、とりあえず動物病院に連れて行って健康診断をするものだが、ここではみんな健康であることが当たり前のようなところがあって余り気にしない。わたしものんびり、マイペースでやっていくことに決めていた。ところが、生後八か月の頃、本人の承諾も無いまま、わたしは突然病院に連れていかれた。何と、避妊の手術であった。男性を思う気持ちが育まれる前の段階でやられてしまった。従って、今にいたるまで、わたしは恋愛感情なんて知らないし、性教育も受けていない。それだけ人生経験は不足していると思われる。男性を見ても何の感情も湧かないし、面倒なトラブルをおこすこともない。さっぱりしたものである。

手術の翌日帰宅してベッドでぐったり。
  お姉さん二人とお兄さん一人の中で、わたしはまさに何の悩みもなく、天真爛漫に成長していった。多摩の家のベランダは最上階にあり陽当たりがよく、晴れた日にはベランダの鉄格子の間から多摩の丘陵地を眺め、遥か遠くには富士山さへ見えることもあった。春には眼下に桜並木が広がり、眼の保養には抜群の所にあり、よく寝そべって日光浴をしたものだ。

 ところが、一歳を過ぎて一、二か月が経ったころ、我が家に異変が起きた。何だかニューヨークという言葉が飛び交い始めた。身辺があわただしくなり、わたしも何だかそわそわしていたように思う。おかあさんが電話をあちこちにかけて忙しく動き始めた。お姉さんたちは日本に残り、お兄さんだけおとうさんとおかあさんと一緒にニューヨークに行くというような話になっているらしい。やっとそれがおとうさんの仕事の関係でニューヨークに引っ越しになるということがわかってきた。わたしはおかあさんの動きにまとわりつきながら、「わたしはどうなるの?」と気が気ではない。最初は「ミーちゃんは連れて行けるだろうか?」というのがおかあさんの心配になっていたが、アメリカは動物愛護国でペットは意外に簡単に同伴できることが分かった。わたしを一人置きざりにしないことが分かると、わたしの身の回り品もしっかり準備をしてくれることを信じて足手惑いにならないようおかあさんの動きを静観することにした。





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