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2012年3月24日土曜日

三毛子 ⑦

一章 ニューヨークへ(1993~1996)

 二人のおねえさんをそれぞれ京都と東京に残して、おとうさんとおかあさんがお兄さんとわたしを連れてニューヨークに転勤したのが二学期の始まる直前であった。アメリカではまさに新学期が始まる時で、おかあさんが待ったなしで学校の手続きに奔走していたことを覚えている。おとうさんは国連の日本政府代表部というところでの仕事が始まり、わたしたちの住む所も探さなければならず、みんな忙しい。

 お兄さんの学校が決まって、週末だけ家に帰ってくる学校生活が始まった頃にやっとわたしたちのアパートが見つかった。それまでの一か月は長期滞在型のホテル住まいで窮屈な環境にわたしとしても必死で耐えしのんだ。ホテルは勝手が違い、落ち着かない。毎日のように朝、みんなが出かけてわたしが一人で留守番していると、メイドさんとかいう人が勝手に入ってきて、掃除が始まる。わたしはベッドの下に隠れてじっと待つ。簡単に片づけて部屋とバスルームをきれいにするとバターンドアをしめて行ってしまう。わたしがいることを知っているはずだが、無頓着で探してごきげん伺いなど全くしない。わたしもそのほうが緊張しなくて良かったが、でも誰も相手がいないというのもさびしいものである。耳を澄まして、おかあさんが帰って来るのを待つしかなかったので、昼間はとにかく気の向いた所でひたすら寝ることに集中していた。日本からアメリカに来るときの飛行機の中と比べたらてんでくらべものにならないくらい身が自由でのんびり出来た。



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